
▼ また、食事と運動を続けて全身的な健康を維持すること、これらはあなたの責任です。もし歯科医とあなたがお互いに責任を果たせば、あなたの歯を一生涯守ることができるのです。
▼ 今までの古典的な歯科臨床は痛いところをなおし、虫歯を治し、その穴を詰め、または冠を入れ、悪い歯を抜いた後に義歯を入れるというような修繕的な治療だったのです。そうして歯科医にかかるのは痛かったり不都合ができたときだったのです。歯を修繕するときその歯だけ診れば良かったわけで、口全体の機能などはあまり問題にしなかったわけです。また、人々も歯がたとえ抜けていても日常生活にあまり支障がなければ放置していました。そうして歯列は崩壊し、咬合に不調和が起こり、顎口腔系の組織に異常が起こり、頭痛、肩こり、筋肉痛、精神的不安定などが起こっても、原因は歯からなど考えも及ばなかったのです。
▼ しかも日を重ねるごとに歯は悪くなり、歯周病も進行し、歯が失われていきます。この場合も歯が失われるのは老化だと理解し、あきらめていました。50歳で5本の歯が、60歳で10本の歯が、70歳では20本近くの歯が失われ、人生80歳という高齢者の時代となりましたが、多くの高齢者は歯を失われた状態で、日常生活を送っているわけです。
しかしその人たちも毎日歯を磨いて歯を大切にしている努力が払われているのです。
▼ 日本の大多数の人たちはこのような歯との人生をたどっているわけです。 私たちの歯科診療所を訪れる人たちも歯に対する考え方、歯科治療に対する期待もこの次元なのです。
▼ 口腔科学として多くの研究が行われ、種々の知見が発表されていますが、これらの科学が実際に多く人々に役立っているかというとほとんどそれは本棚の片隅に追いやられ、現実は百年来の修復歯科医療という"かび"の生えたものが横行しているということです。これは大変不幸なことです。 歯科医が目先だけのことに追いやられ、このすばらしい口腔科学を日々の臨床の中で応用する努力をせずに大衆を無知のままに放置し、その人たちの要求だけに応えるだけで日々を送っていることは社会から怠惰のそしりを受けて当然だと思われます。
▼ 口腔科学として発達してきた歯科が臨床の中に積極的に取り入れられ、この科学の恩恵を得て多くの人たちのクオリティライフを高めていくには患者さんの正しいこれらの問題に対する理解が必要になります。そうして健康を作り上げるための自己責任を持ってもらわなければならないのです。
▼ 健康というのは歯科医や衛生士の手では作ることはできないのです。本当にこの健康の価値を知り、この健康を作るために自己責任を持っている人だけがこの健康を手に入れる事ができるのです。歯科医やそのスタッフはただその手助けをするだけなのです。
◇出会いの大切さ
▼ 私たちの診療所に訪れるほとんどの人たちは古典的な歯科臨床を受けた人たちであり、口腔の健康ということはほとんど知らない人たちです。
▼ 私たちはこれらの人々に私たちの目指す歯科臨床の目的は"口腔の健康"なのだということを知ってもらう必要があるのです。
たとえ、従来からの歯科医のつもりで歯痛を治してほしいと行って来られた患者さんであっても、充分お話を聞くことから始まるのです。
▼ 歯科の治療椅子に最初から座っていただくのではなく、静かな部屋でゆとりとくつろいだ形で椅子にかけていただき、話が始まります。
▼ "今日自分は何を悩んでいるか、問題を持っているか。(もちろん、歯だけの問題だけでなく日常的な問題にしても)"を詳しくお話を聞くことから出発します。患者さんは歯科に対する悩み、老いに対する不安、歯科医に対する様々な要求、痛くないようにとか治療される不安感、経済的な問題等々、また全身的な健康問題、今自分の持っている成人病のこと、また、家族のことなど多岐にわたって話が広がっていくことでしょう。この出会いは、初めは患者と歯科医という役割的なものだったでしょう。お互いが患者という仮面と歯科医という仮面をかぶっているわけですが、話が進むに従って患者さんはリラックスし、今まで自分を守るための固いガードも取り払われて本当の自分を出して大丈夫だとの安堵から顔の表情は和らぎ、種々のことを語りかけられます。
▼ 歯科医は当然本来の自分を患者さんの前に投げ出して、職業としての役割でなく、人間としての出会いを作るように努力していきます。患者さんは一人の人間としてどのような問題を今もっておられてそれを自分はどのように感じておられるのかということを率直に語られます。歯科医は傾聴し、心から患者さんの身になって患者さんを助けてあげよう、この人のため手を貸してあげようと思うわけです。患者さんと歯科医のこの会話は役割の出会いでなく、人間と人間として心の交わりを感じる時間を過ごすことからスタートしていきます。
患者さんたちは日々生活を送る中で歯や口の状態を通じて感情を持っている。
・インタビュー
◇50歳過ぎの和服が似合うご婦人
「最近、結婚式などの会合にお呼ばれする機会が増えたのに、テーブルに運ばれる豪華な料理を前にして私の歯では咬めないという思いが先に立ってなかなか箸がつけられません。これは大丈夫だろうかとこわごわ口に入れて食べ始めますが、どうしても人より遅れ、みんなの間で弾んでいる会話もついていけなくなります。おいしいご馳走もゆっくり味わうこともできないし、華やかな話題から自分一人取り残されていく気がします。もう結婚の披露宴など行きたくありません。」明るい社交的だといわれていた性格も落ち込んで暗くな り、今ではすっかり人嫌いになって家に引きこもりがちになってしまったそうです。歯が悪いことは苦痛だけでなく、知らず知らずのうちに人を無気力にし、自信を喪失させていきます。
◇ 若いころからミス〇〇といわれたほど美しく、チャーミングな笑顔で周囲の人気者だったそうですが、
「子供が大学へ受験するころから歯を痛めるようになりました。よく歯肉が腫れるのです。それと共にきれいに並んでいた前歯がゆるみだし、やがて反っ歯が目立つようになってきました。自信があった口元も今では醜く自分の顔を見るのもイヤになります。つい話をしても口に手をやり、また人前で笑うこともできないのです。ちょうど更年期になったことも重なって気分は完全に「鬱」。
◇馬力のある中小企業の社長。ゴルフの飛ばしやで有名でしたが、60を過ぎたころからボールが飛ばなくなった、というのが開口一番の言葉でした。
「理由が分かっているのです。歯が動くのです。ここ数年歯がゆるみだしたため、何本も抜いて義歯を入れてもらったのですが、具合が悪く歯を食いしばると動いて力が入らないのです。瞬発力のいるティーショットなど以前の半分の距離もでなくなり、何か体力に自信がなくなりました。仕事も根気がなくなり踏ん張りがなくなったようです。」それらのことが気がかかりになり、一度に老いが極まってきた実感を語っておられました。
◇45、6歳の一流の都市銀行に勤めておられる実直そうな紺の背広がよく似合う人ですが、少し「鬱」気味で表情も乏しく元気がないのです。
「実は高校生の長女がお父さん近頃口が臭うというのです。家内もだいぶ前から気づいていたようです。口臭というのは自分では分かりませんが、長女からそれをいわれてからずっと気になりだして、4月の新年度の移動で課長になったのですが、部下の女子従業員に話をするときも何か皆が私になじまず、コミュニケーションがうまくいかないのです。ひょっとしたら私の口臭で私をいやがっているのかなあと思い始めてからだんだんこちらが落ち込んでいくのです。私、口臭がありますか。何とかならないでしょうか。」と、その口調は何か私にすがるような口調でした。
◇37歳の奥さんが子離れをして二人の子供が学校に行くようになりました。ご主人は一流商社に勤務しておられるサラリーマンです。毎日は大変忙しく、家に帰られるのは毎晩のように深夜になります。また一ヶ月に数日は出張で外泊が多く、だんだん家族との交わりが少なくなったようです。奥さん自身はやっと自分自身を省みる余裕ができたのですが、気持ち的には充実感はなく、常に訳の分からない不安に駆られています。それは自分自身に自信がもてない不安なのです。化粧の時に自分の顔をつくづく眺めていても、その鏡の中の顔は昔のあの若さが失われ、子供のために毎日自分を忘れて過ごしてきた間に顔のつやも張りもなく、特に口元は不潔感すら感じるようになってきました。もともと若い頃から歯には自信がなく、特に前歯は高校一年の時に自転車から転んで前歯を強く打って歯を折ってしまったのです。口を血だらけにして家に帰ったとき、お母さんの驚きは大変でした。私も痛みと同時に唇が腫れ上がり、前歯はぐらぐら。本当にその時のお母さんや祖母さんたちが「若い娘がこんな事になって」という声の中で気を失ってしまいました。
歯科医に皆に付き添われていき、ぐらついている歯を抜歯をしました。歯は抜けるし、腫れたくちびるの鏡の中の自分の顔を見て、つい泣き出してしまいました。学校へは一週間休み、マスクをして登校しました。
三ヶ月後には歯科医で前歯にブリッジを入れてもらったのですが、大きな口を開けて笑ったりするのが恥ずかしく、歯に対してのコンプレックスが常にありました。思春期でもありましたが娘時代は陰気な娘であったようです。白い前歯の人が大変うらやましく、テレビを見ていてもいつもアイドルたちの白い歯が気になりました。
しかし、25歳で男らしいすばらしい夫と巡り会い、幸せな結婚生活を送り、二人の子供に恵まれましたが、子育てが終わって鏡に映る顔、口元がみにくく見える自分にいいしれぬ不安がよぎったのでした。
このように初診で私たちの診療所を訪れる人々が私たちに訴えられる"主訴"の裏にはこのような思いがあるのです。その人の"主訴"だけにかかわるのではなく、毎日の生活感情の中で主訴がどのように関わっているかをその人と一緒に聞いていくとき、初めて私たち歯科医がただの技術者ではなく援助者として、その人が健康への道を見つけて歩んでいかれるように手を貸してあげたい気持ちが関わるわけです。患者さんたちは口腔の健康とは何かを理解していただき、主訴を通して健康な口を作る方法を学ばれ、健康への自己責任を育てていかれるわけです。
◇検査
歯や歯周組織のみならず、顎口腔系及び口腔癌などの検査を徹底的に行うわけです。
◇レントゲン検査
歯科用レントゲンはここの歯牙の状態および歯周組織の状態を詳しく知るには必要欠くべからざるものです。 その意味でも4×3pの小さなフィルムで18枚撮影します。これは小さな口の中で実物大の大きさで写します。32本の歯を隅々まで詳しく歯冠、歯根の状態、歯根膜、歯髄、歯槽骨等々をみるには必要な枚数なのです。
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